貸付用不動産の評価見直しへ(前編)なぜ通達評価は市場と乖離するのか
▼賃貸用不動産の評価改正へ
「貸付用不動産の市場価格と通達評価額の乖離(かいり)の利用によって相続税や贈与税が大幅に圧縮されている事例が把握されている」
この説明により、令和7年12月19日に公表された「令和8年度税制改正大綱」では、貸付用不動産の財産評価が改正される見通しとなりました。これにより、課税時期前5年以内に取得した賃貸物件や、同様の節税効果が得られる不動産小口化商品の評価方法が変更となる可能性があります。なぜ今、賃貸不動産の改正に至ったのか、そしてどのような不動産に影響する改正に なるのかを解説します。

▼なぜ賃貸物件は節税になるのか
まずは与党大綱で言及された「貸付用不動産の市場価格と通達評価額の乖離」達評価額の乖離」とはそもそも何かという点から整理していきましょう。
相続税や贈与税は、相続や贈与で取得した財産の課税価格に税率を乗じた額となります。課税価格とは、財産の「時価」であり、その計算方法は、税法や財産評価通達により定められています。不動産の場合、財産評価通達を用いて計算します。
この通達評価にて、不動産は賃貸用に限らず、建物は固定資産税評価額、土地は路線価などで計算します。物件にもよりますが、これにより購入額の7~8割程度の評価額となることが一般的です。そしてこれを賃貸している場合、貸家と貸家建付地の評価が適用され、評価額がさらに下がり、購入額に対して4~5割程度まで圧縮されることもあります。
このことから、現金や預金のまま相続や贈与を行うよりも、いったん不動産に組み替えてから行うほうが税負担を抑えやすくなります。この仕組みにより、賃貸不動産は節税策として活用されてきました。
▼市場価格と乖離する理由
ではなぜ賃貸不動産の評価は、これほど購入額(市場価格)と乖離するのでしょうか。それは「評価の視点」が根本的に異なるためです。
賃貸不動産は、一般的に投資目的で所有されるため、市場価格を形成するうえで最も重視されるのは収益性です。借り手がつかず空室が続く不動産は価値が低く、反対に、入居者が安定して確保され、収益が継続的に見込める不動産は、市場では高く評価されます。
一方、通達評価では、その不動産が「自用か否か」という点が影響します。賃貸不動産のように他者が利用している不動産は「所有者以外の第三者が使用しているため、利用上の制約を受けている不動産だ」と考えるのです。これにより、借家権や借地権に相当する金額分だけ、建物や敷地の評価額は減額されます。マンションやアパートなど、複数の独立した区画を有する建物を一棟で所有している場合には、賃貸割合に応じて減額の程度が調整されます。満室であれば減額は最も大きくなり、反対に入居者がまったくいなければ減額は行われず、自用と同額の評価となります。家賃収入の額や収益性は考慮されません。
つまり、賃貸不動産は「借り手が多いほど通達評価額が下がる」という、市場価格とは逆の仕組みが働くのです。

これが市場価格と通達評価額の乖離が生じる根本的な原因となります。
なお、不動産小口化商品の中にも、この通達評価を適用できるものがあり、同様に乖離が生じやすいため、改正の対象に含まれています。
次回は、政府が問題視した貸付用不動産の節税スキームが、具体的にどのようなものだったのかについて解説します。
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