賃料増額は繁忙期が絶好の機会!実現のための方法は?

 インフレの影響で、賃貸物件の賃料上昇が全国的に進んでいます。オーナー様にとって、いまは賃料見直しを検討する好機といえるでしょう。

 ただし、「周囲が値上げしているから」といった理由だけで値上げを行うのは危険です。

 安易な増額は、空室リスクを高める可能性があります。市場全体の動向(マクロ)と地域・物件の特性(ミクロ)の両面から、「賃料を上げるかどうか」「上げるならどの程度か」を慎重に判断する必要があります。

 全国賃貸住宅新聞が2025年6月に発表した調査によると、「賃料を値上げした」と回答した管理会社は71.4%、今後実施予定を含めると84.7%に達しました。

値上げ率で最も多かったのは「3〜5%(42.7%)」、金額では「1,000〜3,000円未満(46.7%)」が最多です。こうしたデータを見ると「値上げできるのは都市部だけではないだろうか?」と感じる地方オーナーもいるかもしれません。しかし実際には、全国的に上昇の波が広がっています。

 一方で、以下のようなエリアでは賃料値上げを慎重に検討すべきです。

・人口減少が進行している
・商業・産業の衰退が進む市街地
・大学や大規模工場が撤退
・物件の供給過剰エリア

 また、以下のような物件の特性によっては値上げよりも、稼働率向上を優先すべき場合もあります。

・現在の空室率が高い
・築古で計画的に大規模修繕を実施していない
・浴室・トイレ一体型、フローリング未施工、人気設備が整備されていない

 これらの条件を踏まえたうえで値上げを実施する場合は、「適正な値上げ幅」を設定することが重要です。

 根拠のあるデータに基づいた判断が、入居者との信頼関係を損なわずに賃料アップを実現する鍵となります。

 

 賃料を見直す際、何となくの感覚で設定してしまうケースは少なくありません。しかし、その結果として相場よりも低い家賃になってしまうケースもあります。相場を下回る賃料は、収益性を損なう大きな要因です。

 逆に、相場を上回る家賃設定は空室リスクを高めます。

 近年の入居者は複数のポータルサイトを比較しながら情報収集を行っています。そのため、賃貸経営においては、市場データに基づく「根拠のある賃料設定」が求められます。

 客観的なデータに裏づけされた賃料こそ、オーナー・入居者の双方が納得しやすい金額といえるでしょう。

 データに基づく賃料設定では、まず、立地・築年数・専有面積・駅距離などの条件が近い物件を抽出し、平均賃料を算出します。

 そのうえで、次のような要素で調整すると適正賃料が導き出せます。

・加点要素(プラス調整):新築・築浅、宅配ボックス、オートロック、独立洗面台、無料Wi-Fiなど
・減点要素(マイナス調整):築古物件、1階住戸、日当たり、騒音など

ただし、こうしたデータの収集・分析を個人で行うのは簡単ではありません。

そこで活用したいのが、AI賃料査定サービスです。膨大なビッグデータをもとに、物件ごとの適正賃料を自動的に算出してくれます。

感覚や勘に頼らず、データに裏付けされた賃料設定を行うことで、長期的な安定経営につながります。

 賃料を上げる際には、どのタイミングで実施するかが極めて重要です。ここでは、3つのタイミングについて確認しておきましょう。

1.次回募集時:最も調整しやすいタイミング
入居者が退去した後の新規募集時は、契約前のためトラブルリスクがありません。

 周辺の賃料相場や物件価値を反映させることで、適正な賃料を設定しやすくなります。

 また、募集条件や掲載写真、物件の訴求内容も同時に見直すことで、より効果的な募集活動が行えます。

2.契約更新時:根拠があれば入居者の理解を得やすい

 契約更新時は、相場に基づいた増額であれば比較的合意を得やすいといえます。

 特に、あらゆるサービスや商品の価格が上昇する現在のタイミングは、一定の賃料調整が受け入れられやすい状況にあります。

3.契約期間中:慎重な対応が求められるタイミング
 契約の途中で賃料を上げる場合は、入居者に唐突な印象を与えやすく、トラブルに発展するおそれがあります。

 借地借家法第32条では、正当な事由(根拠)があれば貸主が増額を請求できると定めています。

 しかし、入居者が同意しなければ調停や訴訟に発展する可能性があります。

 実際に値上げを行う場合は、次のような合理的な理由を文書で明示し、丁寧に説明することが重要です。

・固定資産税などの租税負担が増加した場合
・建物や土地の価格が上昇した場合
・現行賃料が周辺相場と比べて明らかに低い場合
・物価上昇など経済事情が大きく影響する場合

 入居者とのトラブルリスクを考えると、賃料の見直しは①次回募集時または②契約更新時に行うのが得策ではないでしょうか。

 ここまでの内容を踏まえると、賃料を上げる最も合理的なタイミングは「需要が最も高まる繁忙期=1〜3月」といえるでしょう。

 この時期は転勤や新生活に伴う引っ越し需要が増えるため、多少の賃料増額でも入居希望者を確保しやすくなります。

 賃料を増額したうえで募集開始後は、一定期間(1週間後など)の反響率や内見数をモニタリングすることが大切です。

 反響が想定より少ない場合は、以下のような改善策を検討しましょう。

・募集条件の見直し(敷金・礼金なし、フリーレントの導入など)
・募集広告の写真や文面の改善
・出稿媒体を増やす

 募集開始から約2週間経過しても反響が少ない場合は、賃料そのものを再検討することも視野に入れる必要があります。

 入退去だけではなく、更新のタイミングも繁忙期に集中するため賃料増額のチャンスです。この機会を利用して、収益拡大を狙いましょう。

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