家族信託を知ろう【全3回シリーズ】 (2)成年後見制度との比較・使い分け
前回、認知症に伴う財産の凍結を防ぐ仕組みとして家族信託を紹介しました。今回は、同様の効力を得られる国の制度「成年後見制度」を紹介します。
▼成年後見制度とは
成年後見制度とは、判断能力が低下した方の財産や生活を守るために、家庭裁
判所が本人の代理人となる人物を定める制度です。
未成年であれば基本的に親が法定代理人となりますが、高齢の認知症患者を含む成年の場合、この制度のもとで選任された後見人等が、裁判所の監督下で支援を行います。
成年後見制度は「法定後見」と「任意後見」に分かれます。法定後見は、本人に判断能力の低下が見られた場合、家庭裁判所を通じて後見人等を選任する制度です。その判断能力に応じて、後見・補佐・補助に分かれます。判断能力がもっとも低い場合に適用される「後見」では、本人(被後見人)のすべての行為を後見人が代理できるほか、日用品の購入などを除く本人の行為を事後に取り消すことが可能です。あわせて、本人のすべての財産を維持管理する権利も与えられるため、財産が凍結された後でも有効な制度となります。 任意後見は、本人の判断能力が十分なうちに、自分で選んだ相手と任意後見契約を結び、公正証書を作成して、後に判断能力が不十分になったときに契約内容に基づいて財産管理等を行ってもらう制度です。ただし、選んだ相手とは別に、その人物を監督する「任意後見監督人」を家庭裁判所が選任し、チェックを受ける仕組みとなります
| 手続き | 対象者 | |
| ①親族などが家裁に申し立て ②調査鑑定 ③審判後、成年後見人等を選任 | 判断能力が不十分になった方 | 法定後見 |
| ①契約を締結 ②判断能力低下後、親族などが家裁に申し立て ③家裁で任意後見監督人を選任 | 判断能力が不十分になる「前」の方 | 任意後見 |
▼家族信託と任意後見の違い
成年後見制度の「任意後見」は、さまざまな点で家族信託と共通する制度です。
【主な共通点】
・本人が元気なうちに契約を結ぶ
・財産管理を任せる相手を本人が選ぶ
・管理財産の範囲を契約で決められる
その一方で、家族信託と任意後見には次のような違いがあります。
| 報酬 | 財産管理 以外 | 財産管理 柔軟性 | 財産管理開始時期 | |
| 契約で 決める | 不可 | 柔軟な 運用可 | 元気な うちから可 | 家族信託 |
| 後見人:契約で決める 監督人:監督人の請求と家裁の判断 | 身上監護(入院や介護手続き等)も可 | 監督人を通じ家裁の監督を受ける→投資や資産の組み換えなど柔軟・機動的運用は困難 | 判断能力低下後、家裁の手続きを経てから | 任意後見 |
たとえば、判断能力が十分であっても、体力の衰えなどからアパート経営等の事業をすぐにでも引き継ぎたい場合があります。その場合は、任意後見では不十分ですので、家族信託を活用するか、あるいは任意後見と財産管理委任契約を組み合わせるといった方法があります。
また、家族信託では身上監護(「身体」に関わる管理。病院・介護施設の契約など)は対象外です。そのため、基本は任意後見としつつ、柔軟に運用したい財産については家族信託で管理する選択もあります。
財産管理の対価である報酬を抑えたい場合は、一般的に家族信託が向いていると言われます。ただし、家族信託の活用は専門家の指導のもと行うことが望ましく、登記などの手続きも存在するため、初期費用は高めです。
こうした制度の相違点を踏まえ、財産管理の目的や状況に合う制度を選択することが必要になります。

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