確定申告後に見直したい!賃貸経営の「真の利益」とは?
◆確定申告の数字を、次なる一手のヒントにする

確定申告を終えた後、多くのオーナー様が次のように感じているのではないでしょうか。
「帳簿上は黒字なのに、手元に残る現金が少ない気がする」
「来期は赤字を減らしたい」
「これから先、安定収入を稼ぎ続けられるだろうか」
確定申告は、単なる「過去1年間の結果報告」ではありません。申告書に並んだ数字には、次の1年の賃貸経営を改善するためのヒントが隠されています。申告書を「納税のための義務」で終わらせるのではなく、未来の収益を最大化するための材料にしましょう。
税引前利益は、「その物件がどれだけ稼ぐ力を持っているか」を示す指標です。いわば、物件の真の実力と言えるでしょう。
「税引後利益の方が大切では」と考えるオーナー様もいるかもしれません。しかし、税引後利益は、オーナー様個人の所得や控除といった「個人の事情」に大きく左右されます。
たとえば、給与所得が高いオーナー様ほど所得税率が上がるため、同じ物件を運営していても税引後の手残りは少なくなります。
これでは、物件の純粋な稼ぐ力が分かりません。税引前利益で物件の稼ぐ力を把握し、今後の修繕計画や出口戦略を冷静に判断することが重要です。
◆「税引前利益」を増やすための具体策
個人事業主の場合、青色申告決算書(不動産所得用)の差引金額が、税引前利益(不動産所得)です。計算式はシンプルです。
不動産所得 = 総収入金額 − 必要経費
つまり、収入を増やす、または経費を減らすことが不動産所得を高める方法ということです。具体的な施策は、以下のとおりです。
◆収入を増やす(トップライン引き上げ)
空室対策による稼働率の向上と並行して、「1室あたりの賃料」「家賃外収入」の底上げに力を入れることが、税引前利益を最大化する鍵を握っています。
●賃料相場の確認と改定
1室あたりの収益を高める第一歩は、現行の賃料が周辺相場と合っているかを確認することです。
相場より割安な場合は、家賃値上げ交渉や、新規募集時の賃料見直しなどを検討しましょう。
●家賃外収入の多角化
敷地の余剰スペースを「資産」として捉え直し、駐輪場やトランクルームの設置などで収益源を増やします。
自動販売機の設置も人気ですが、通行量などによって収益が大きく変わってきます。そのため、慎重な市場調査が欠かせません。
◆経費を減らす(コストの最適化)
経費削減において重要なのは、「安かろう悪かろう」ではなく、コストパフォーマンスを意識した「コストの最適化」の視点です。
たとえば、管理手数料を強引に削減すると、サービス品質の低下を招き、入居者満足度やリーシングに悪影響を及ぼすリスクがあります。このため、経費削減はサービスに影響しない固定費から着手しましょう。
●共用部電気代の削減
昨今の光熱費上昇に伴い、共用部の電気代見直しは有効な手段です。
月々の削減額は、わずかな金額かもしれません。しかし、電気代は継続的に発生する経費であるため、「共用灯のLED化」や「電力会社の切り替え」などによって長期的なキャッシュフローに大きな差が生まれます。
注意点としては、電力会社に切り替えた結果、逆に電気代が上がるケースもあります。
現在の料金プランと条件を十分に比較し、「切り替えによって本当に経費が削減できるか」を慎重に見極める必要があります。
●定期清掃の見直し
現在、入居者から共用部の清掃に関するクレームがなく、かつ清掃回数が過剰に設定されている場合は、見直しの余地があります。ただし、清掃回数をやみくもに削るのではなく、「美観が維持できる範囲で回数を調整できないか」を管理会社と相談してみましょう。
あくまでも、適正な回数にすることが大事です。

◆最適な経営判断のためのケーススタディ

確定申告で算出された「税引前利益(不動産所得)」は、以下のような要素と組み合わせることで、最適な経営判断がしやすくなります。
・減価償却の期間:減価償却の額や残り期間
・借入状況:ローンの残債や金利、残り期間
・物件の状態:築年数や大規模修繕の履歴
・内部留保:余裕資金
税引前利益とこれらを掛け合わせることで、「設備投資をすべきか」「家賃設定を見直すべきか」「現状維持が最適か」など、有効な次の一手が見えてきます。
一例として賃貸経営でよく直面する、2つのケーススタディで考えてみましょう。
●減価償却が大幅に減少した物件
築年数が進むと、帳簿上の経費である「減価償却費」が減少しやすくなります。 これにより、税務上の「不動産所得」が増え、納税額が急増する傾向にあります。その結果、帳簿上の利益は多いのに、手残りが少ない現象が起きやすくなります。
【経営判断のヒント】
直近の税引前利益が十分に出ており、内部留保に余裕があるなら、増えた不動産所得を将来の空室対策のために「物件性能や設備のグレードアップ」に充てるという選択が有効です。
これにより、税負担をコントロールしながら、稼ぐ力を底上げできます。
●ローン返済中の物件
ローン返済中の物件では、毎月の返済によってキャッシュの流出が発生します。そのため、空室が発生すると、オーナー様はプレッシャーから「早く埋めるために家賃を下げるべきか」といった短絡的な判断に陥りがちです。
【経営判断のヒント】
目先の空室を埋めるための「安易な家賃値下げ」は、避けるべきです。
なぜなら、一時的に稼働率を改善するものの、長期的な収益性を損なうリスクがあるからです。家賃値下げの前に「一時的な負担(敷金礼金の減額やフリーレント)」で済む施策を検討してみましょう。
また、状況によっては、あえて家賃値下げをして稼働率を高めた方が良い場合もあります。 税引前利益を見て「多かった、少なかった」と一喜一憂で終わってしまっては意味がありません。
重要なのは、その数字を冷静に見つめ、「次に何をすべきか」を正しく判断することです。
あわせて読みたい
-
改正相続
所有不動産を一覧的にリスト化する「所有不動産記録証明制度」が開始
▼所有不動産記録証明制度 2024年4月から相続した不動産について3年以内に相続登記を行うことが義務化されています。やむを得ない事情なしに相続登記を怠った場合には10万円以下の過料があります。..
-
ミニマム課税投資改正相続税制改正節税賃貸経営
令和8年度税制改正で賃貸経営はどう変わる?vol.2
▼ポイント2:不動産小口化商品の評価が取引価額ベースに 今回の税制改正大綱では、不動産小口化商品(任意組合型等)についても、評価方法の見直し方針が示されました。 そもそも「任意組合型」と..
-
投資用不動産改正相続税金節税賃貸経営
令和8年度税制改正で賃貸経営はどう変わる?vol.1
▼賃貸オーナーが注目すべき税制改正の3つのポイント 今回の税制改正において賃貸オーナー様が特に注意したいポイントは、以下の3点に集約されます。 ・貸付用不動産の相続税評価の厳格化・不..
-
土地活用相続駐車場
土地活用としての駐車場経営 ②駐車場は相続税対策になるか
▼駐車場経営と相続税の関係 前回は、駐車場経営の基本的な仕組みについて解説しました。今回は、駐車場経営を行う際に気をつけたい税金の扱いを紹介します。 ▽相続税の仕組み 相続税は、故人の..
-
相続
遺言書にまつわる注意点やトラブル ④遺言書を絶対に作るべき人・その2
遺言書を絶対に作るべき人その2は特別受益があるときです。 ▼特別受益とは? 民法九〇三条では「特別受益」について「生計の資本として贈与を受けた」と 規定していますが、一般的な贈与に..
-
相続
家族信託を知ろう (1)認知症への備えとなる仕組み
▼7人に1人が認知症に 認知症高齢者は2030年には523万人、高齢者の約7人に1人となる推計が厚生労働省研究班により示されました。今、親の認知症は誰にとっても身近な心配事です。 認..
-
相続
相続対策として生命保険の活用
◆遺産分割の対象外 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します。しかし、生命保険金は、契約上指定された受取人が自分の固有の権利として取得します。 夫..
-
税金
「103万円の壁」はどう変わった?令和7・8年の所得税基礎控除は8段階に
いわゆる「103万円の壁」とは、収入が給与所得のみの方にとって、所得税が発生しない年収のラインとなります。給与所得控除55万円と基礎控除48万円の合計額であり、このラインを超えると所得税の課税対象..
-
相続
AIによる相続税調査の導入(2025年夏~)調査拡大の懸念
国税庁は2025年夏から、相続税の税務調査に人工知能(AI)を本格導入すると発表しました。今回、気になるその内容について取り上げます。 ▼相続税調査にAIを本格導入 2025年夏から、国税庁は..
-
相続
遺言書にまつわる注意点やトラブル ④遺言書を絶対に作るべき人・その1
▼遺言書を絶対に作るべき人 遺言書を絶対に作るべき人“その1”は、子供がいない人です。 配偶者は必ず法定相続人になりますが、子供がいれば子供と配偶者が法定相続人となります。子供が既に死亡してい..
-
相続
遺言書にまつわる注意点やトラブル ③自筆証書遺言補完制度
自筆証書遺言書保管制度 「自筆証書遺言書保管制度」は、普通の人が独力で遺言書を作る前提で制度設計されたもので、法務局が公式サイトで懇切丁寧にやり方を説明してくれています。そのため、最初に作る遺..
-
相続
賃貸オーナーが、家族信託を検討すべき理由とは?
オーナーが認知症になった場合、賃貸経営はどうなる? 「もし自分が将来、認知症になってしまったら…賃貸経営を続けられるのだろうか?」 そんな不安を感じているオーナー様も、いらっしゃるのでは..
-
相続
賃貸物件を活用した相続対策のポイントは?
賃貸物件は相続を意識して取得・所有することが重要です 相続税とは、不動産や金融資産などの相続資産から非課税分(または控除分)を差し引いた金額をもとに計算されます。 資産を現金や預金で持..
-
相続
遺言書の確認をしておきましょう
被相続人が「遺言書」を残しているかどうかの確認をしておくことで、遺産分割相続をスムーズに行うことができます。 遺言書には3種類あります。 遺言書がある場合、遺言者の亡くなった日に最も近い日..
-
相続
遺言書にまつわる注意点やトラブル①
遺言書の有効性と注意点 結論から言うと、財産がある人もない人も、遺言書を作成しておくべきです。 なぜなら、遺言書がないと、残された相続人が遺産分割をしなければならないからです。今回、遺..
-
税金
2025年度税制改正 子育て世帯向け税制改正のポイント
▼住宅ローン控除 子育て世帯等の上乗せの延長 令和7年中に新しい住宅に入居する子育て世帯等を対象に、住宅ローン控除の計算対象となるローン限度額の上乗せ措置が、1年延長されます。住宅ローン控..
-
税金
複合構造家屋の固定資産税(最高裁の判例紹介)
最高裁は、2025年2月17日、複合構造家屋の固定資産税に関して3件の判決を言い渡しました。2件は大阪市、1件は広島市が相手方です。今回その争点を解説します。 ▼裁判の争点 本件の争点は、低..
-
相続
不動産を含む遺産の分割
相続が発生した場合、遺産は相続人の共有のものとなります。 誰がどのような遺産(相続財産)を受け取るか、また、どんな手続が必要なのかを確認しておくことが必要です。 分割しにくい賃貸住宅等の不動..
-
相続
もしもの時、もめない!慌てない!後悔しない!そのために
オーナー様にもしもの事が起きたとき、何も対策を行っていないと、遺産分割協議でもめてしまい相続人が確定するまでに時間がかかってしまう。 その場合、「賃料の送金口座」、「新たな入居者との賃貸借契約の..