賃貸オーナーが、家族信託を検討すべき理由とは?

「もし自分が将来、認知症になってしまったら…賃貸経営を続けられるのだろうか?」

そんな不安を感じているオーナー様も、いらっしゃるのではないでしょうか。

 厚生労働省によると、2040年には「高齢者の約6.7人に1人が認知症になる」といわれています。

オーナー様が認知症になってしまった場合、以下のようなリスクがあります。

● 契約が無効になる可能性がある
…意思能力が不十分だと各種契約(売買、賃貸管理など)が、無効になるおそれがあります。

● 管理に関する判断ができなくなる
…空室対策や修繕の判断、入居者対応など、日常的な賃貸管理がスムーズにできなくなる可能性があります。

●相続や将来の対策ができなくなる
…認知症になると、生前贈与や相続対策が進められなくなります。

以上が賃貸経営の認知症リスクです。

 これまで賃貸経営のリスクといえば、「空室」「災害」が中心でした。

 しかし、これからは「認知症リスク」も見逃せない課題であり、元気なうちに対策を考えておくことがとても大切です。

 今、認知症リスクへの対策として、不動産業界で注目されている財産管理の方法が「家族信託」です。

 家族信託とは、ご自身の大切な財産(アパートなどの賃貸物件を含む)を、信頼できるご家族に託し、将来にわたって管理・運用・承継してもらう仕組みです。

家族信託を活用することで、得られる主なメリットは以下の3つです。

・認知症などで判断力が低下しても、財産が凍結されずに済む
・元気なうちに、「どの財産を、誰に、どのように」引き継ぐかを決めておける
・遺言機能を活用すれば、信託終了後の財産の引き継ぎ先を指定できる

 その結果、家族信託を活用すれば、認知症になっても、円滑に財産を管理・運用・承継していけるのです。

「本当に家族信託って広がっているの?」と感じる方もいるかもしれません。

 家族信託そのものを示す公式な統計は少ないですが、「民事信託契約」の件数から、その広がりが見えてきます。

たとえば、公証役場で作成された件数を比較すると…
・2018年:2,223件
・2023年:4,434件
5年でほぼ2倍に増加しており、「家族信託は確実に広がっている」と言えるでしょう。

 次に、家族信託の基本的な仕組みを確認していきましょう。

 たとえば、賃貸オーナーである親(委託者)が、将来に備えて子(受託者)に賃貸物件の管理を任せたいと考えたとします。

 この場合、親子で「信託契約」を結び、アパートなどの物件(信託財産)を子に管理・運用してもらう形をとります。

 さらに、物件から得られる家賃収入や売却益などを受け取る人(受益者)を親自身に設定しておけば、オーナーはこれまで通り、安定した収入を得続けることができます。

 つまり、家族信託を使うと、オーナー様は収入を得る権利を持ちながら、実務をお子様に任せることができるというわけです。

 「財産を家族などに任せる仕組み」としては、「成年後見制度」もよく知られています。ただし、成年後見制度は家庭裁判所の監督下で財産管理を行うため、資産の積極的な運用・処分には制限があり、新たな契約や売却などでは都度、許可が必要となります。

「家族に管理を任せながらも、自由度の高い資産活用をしたい」というオーナー様には、家族信託の方が相性がよいケースが多いでしょう。

 不動産会社を窓口に家族信託を進めると、以下のようなメリットが得られます。

・信託後の賃貸経営(空室対策・修繕・売却)も一緒に相談できる
・信託スキームと資産戦略(資産の組み換えや出口戦略)をセットで考えられる

 ただし、信託契約書の作成や登記は司法書士の専門分野なので、不動産会社と司法書士が連携して進めるのが基本です。

●2.信託する資産を決定する

 家族信託は、オーナー様(委託者)が信頼するご家族(受託者)に、財産の管理や運用を任せる仕組みです。そのため、「どの財産を、誰に、どのように」任せるのかを具体的に決める必要があります。この段階では、受託者になる方だけでなく、他のご家族とも話し合っておくことで、後々の相続トラブルを防ぐことにつながります。

●3.専門家に手続きをしてもらう

 2で決めた内容を「信託契約書」として書面にまとめます。それを公正証書にしておくとより安心です。

 不動産会社に、家族信託に詳しい司法書士を紹介してもらえば、スムーズに進みやすくなります。

もし、お付き合いのある司法書士がいれば、その方にお願いするのも良いでしょう。

 なお、信託契約書を作成したあとの手続きは、資産の種類によって異なります。

・不動産の場合:法務局で信託登記(名義の変更)の必要がある
・現金や預金の場合:信託専用の口座を作り、そこへ資金を移す必要がある

 家族信託の費用が気になるオーナー様も多いと思います。
 専門家に手続きを依頼した場合、一般的に30万円から100万円程度の費用がかかるといわれます。ただし、この金額はあくまでも目安であり、信託財産の種類や総額などにより上下します。

 ここまで見てきたように、家族信託は財産の管理や承継を柔軟に行える便利な仕組みです。ただし、いくつか注意すべき点もあります。

・受託者以外の相続人から「遺留分侵害額請求」があった場合、対抗するのが難しい
・相続税や贈与税の節税効果は限定的であることが多い

 このように、家族信託を利用しただけで、相続や贈与の課題がすべて解決するわけではありません。
 また、残債がある物件を信託財産とする場合、融資元の金融機関の承認が必要となります。そのため、家族信託だけに頼るのではなく、ほかの対策と組み合わせて進めることが大切です。

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