賃貸物件を活用した相続対策のポイントは?

 相続税とは、不動産や金融資産などの相続資産から非課税分(または控除分)を差し引いた金額をもとに計算されます。

 資産を現金や預金で持っていると、額面がそのまま評価額となり、相続において不利となることがあります。

 一方、資産を不動産で所有すると、相続税の評価額が下がるため、節税対策になるというのが基本的な仕組みです。加えて、所有している土地をアパートやマンションなどの賃貸物件で活用すると、「貸家建付地の評価」が適用され、さらに評価額が下がります。

 以上が相続対策として賃貸経営を行うメリットですが、不動産を配偶者や子どもなどに遺すことで相続トラブルに発展するケースも少なくありません。

円満な相続を実現するためには、次のポイントを押さえておく必要があります。

 先述のように、相続対策においては相続税評価額を下げることが重要です。そこで着目したいのは評価額と収益性・実勢価格が必ずしも一致しない点です。

 例えば、相続対策で不利なのは、空室率が高く収益性が低いにもかかわらず、地価が高いなどの理由で評価額が高い物件です。

 このような物件を所有している方は早めに売却して相続に有利な物件に組み替えることをおすすめします。

 対極的に、相続で有利なのは、土地や建物の評価額が低く、稼働率や実勢価格が高い物件です。

 ただし、一般の方がこのような物件を探すのは難しいため、不動産会社に提案してもらうのが得策です。

 オーナー様やご家族が、株主となる法人を設立し、その法人に賃貸物件の所有権を移すことで節税対策が可能です。

 その理由は、賃貸物件を法人が所有している場合、相続が発生しても物件の移転が不要なためです。

 これにより、相続時の手続きが簡略化され、相続税の負担を軽減できます。

 しかし、注意点もあります。それは、相続が発生した際に「被相続人の持ち分の株式」が相続の対象となることです。

 つまり、法人を設立しても、被相続人となる人(親など)の株式の持分比率が高い場合、高額な相続税が発生する可能性があるということです。

 そのため、法人を設立する際には、将来の被相続人の持分を低く設定することが重要です。

 例えば、父と母の持ち分を合わせて4%にし、3人の子どもの持ち分をそれぞれ32%に設定しておくと、相続税を大幅に抑えることが可能です。

 すでに法人化していて将来の被相続人の持ち分比率が高い場合、年間110万円以内の非課税枠(基礎控除)を利用して、期間をかけて株式を家族に移転することで、贈与税を発生させずに持分比率を下げることが可能です。
※ただし、相続発生前の一定年数の贈与は相続税の課税対象となります。

 相続対策でよくある誤解の一つに「物件は現金で購入するのが良い」という考え方があります。

 この根拠になるのは、資産を現預金で持っていると、相続税評価額が高くなる、だから減らす必要があるというものです。たしかに、表面的に見ると、物件を購入する際に融資を利用せず、手元の現預金を使う方が得策のように思えます。

 しかし、現預金を減らし過ぎると、相続が発生した際に納税資金が不足したり、相続人の間で現金による調整が難しくなったりする問題が発生しやすいです。

 このようなリスクを避けるため、物件購入は融資を中心に行い、現金は年間110万円以内の贈与の非課税枠を利用して徐々に減らしていくのも一案です。

 さらに、法人を立ち上げて融資を受けると、借入金によって純資産が減少するため、株式の評価額が下がります。その結果、相続税の評価額を抑えやすくなるメリットがあります。

 相続における不動産のデメリットとして、複数の相続人がいる場合に「均等に分けにくい」という点が挙げられます。

 例えば、1棟のアパートがあり、3人の子どもがいる場合、1つの物件を3人で均等に分けるのは難しいため、共有や代償分割(物件を相続しない人に代償金を支払う方法)を選択する方法があります。

 しかし、賃貸物件を共有にすると、売却や建て替えなどで所有者の意見が食い違った際に深刻なトラブルに発展してしまうリスクがあります。

 また、代償分割では、物件を継承する人が現金を用意できないなどの問題が発生する可能性があります。

 このようなトラブルのリスクを軽減するためには、公平な相続ができる形で物件を遺すことが重要です。

 例えば、3人の子どもがいる場合には、ほぼ同じ価値のアパートを3棟用意する、または、区分マンションを1戸ずつ用意するなどの配慮が考えられます。

 特定の相続人に賃貸物件を遺したい場合、法的に有効な遺言書を作成することが重要です。

 主な遺言書には「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」があり、それぞれ特徴とポイントが異なります。

 自筆証書遺言は遺言者が手書きで作成するものです。

 法的に有効とされるための要件としては、全文を被相続人が自筆で作成していること、日付を記載していること、そして署名押印があることが挙げられます。

 自筆証書遺言は不備が生じやすいため、弁護士や司法書士などの専門家のサポートを受けて作成することをおすすめします。

 一方、公正証書遺言は、公証役場で公証人が遺言者の口述内容を文章にまとめたものです。これは法律の専門家である公証人が作成し、公証役場で保管されるため、極めて信頼性が高いです。

 相続トラブルを防ぐという観点では、公正証書遺言の選択が望ましいです。

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