遺言書にまつわる注意点やトラブル ④遺言書を絶対に作るべき人・その2
遺言書を絶対に作るべき人その2は特別受益があるときです。
▼特別受益とは?

民法九〇三条では「特別受益」について「生計の資本として贈与を受けた」と
規定していますが、一般的な贈与に限定されず、被相続人(死亡した人)から何らかの財産的な優遇措置を受ければ「特別受益」にあたるとされています。
学費、持参金、住宅資金の援助、自宅の敷地の無償提供、事業資金の援助など、ありとあらゆる財産的な優遇措置が「特別受益}にあたると考えるべきです。
特別受益は遺産の前渡しと言えるため、特別受益は本来の遺産に含めて計算されます。これを「持ち戻し」と言います。
相続人が妻、長男、長女の3人で、遺産が現金1億円のみ(ただし、長男は生前に2億円の不動産の贈与を受けている)というケースで考えてみます。法定相続分によれば、妻が5000万円、長男と長女が2500万円ずつの現金を相続することになるはずですが、長男は既に2億円の不動産の生前贈与を受けているため、妻と長女の側からすれば不公平に思えます。
そこで、長男の2億円を遺産に持ち戻し、遺産が3億円あったと仮定して計算し直します。そうすると、妻が1億5000万円、長男と長女が7500万円ずつになりますが、遺産は1億円しかないため、相続額は妻が6666万円、長女が3333万円、長男がゼロ(別に生前贈与を受けた2億円の不動産)となります。
▼持ち戻し免除の意思表示
被相続人は、特別受益について「持ち戻し免除の意思表示」をすることができます。黙示の意思表示でも有効ですが、無用な紛争を防ぐためにも遺言で明記しておくべきです。被相続人が長男に贈与した2億円の不動産について持ち戻し免除の意思表示をすると、現金1億円について、妻が5000万円、長男と長女が2500万円ずつ相続することになります。
▼遺留分侵害請求
とはいえ、兄弟姉妹を除く相続人には「遺留分」があります。遺留分は遺言によっても侵害することができませんので、持ち戻し免除の意思表示が遺留分を侵害する場合には、長男は他の相続人から遺留分侵害額請求をされることになります。持ち戻し免除の意思表示がなかった場合の本来の相続額は、妻が1億5000万円、長女が7500万円であり、遺留分は本来の相続額の2分の1ですので、妻が7500万円、長女が3750万円となります。
そのため、妻は実際の相続額6666万円との差額834万円、長女は実際の相続額3333万円との差額417万円を長男に請求することができます。なお、民法一〇四四条三項で、遺留分侵害額請求の対象になる特別受益は相続開始前十年間のものに限られるとされている点は注意が必要です。

遺言書を作成することで、死後の面倒ごとを減らし、遺産を巡る骨肉の争いを予防できますので、財産の多寡にかかわらず自筆証書遺言を作成し、法務局に預けておくことをおすすめします。
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