賃貸経営とカスタマーハラスメント

 最近「カスタマーハラスメント(以下カスハラ)」という言葉をよく耳にします。賃貸経営におけるカスハラについて解説します。

 「カスハラ」とは、顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの(厚労省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」)と定義されています。

 また、国交省は、厚労省のカスハラの定義を前提として、「マンション標準管理委託契約」に基づいて中止を求めることができる「有害行為」に「カスハラ」を含めることができるとの見解を示しています。  国交省は、カスハラの具体的内容として次の内容を挙げています。

 カスハラ対策としては、賃貸借契約書の特記事項に次の文言を記載しておくことが賢明と考えられます。「賃借人は、賃貸人に対し、~が賃貸人と賃借人との間の信頼関係を破壊し賃貸借契約の継続を著しく困難にする背信行為に該当する旨を認め、そのような行為をしないと約束する。」(「~」には国交省の列挙事項を転記)。これにより、賃借人による不当要求を拒絶する法的根拠としておくことです。  カスハラ禁止条項があることで、賃貸人は「カスハラになるからやめてください」と言いやすく、賃借人も「カスハラになるからやめておこう」と思い留まることが期待できます。

 カスハラをやめない賃借人に対し、このカスハラ禁止条項に基づいて賃貸借契約の解除をすることは残念ながらできません。

 裁判所がカスハラ禁止条項だけに基づいて賃貸借契約の解除を認めることはなく、これまで何十年もかけて積み重ねられてきた判例法理(賃貸人と賃借人との間の信頼関係を破壊し賃貸借契約の継続を著しく困難にする背信行為があれば賃貸借契約の解除を認め、なければ認めないというもの)に従って解除理由の有無が判断されることになります。

 しかし、カスハラ禁止条項があれば、賃借人がカスハラ禁止条項に違反したことを賃借人の背信性を加重する事情として主張することができます。裁判所が判断に迷う事案(賃借人が著しい不適切行為をしていることは確かだが、信頼関係が破壊される程度に至ったと評価できるかどうかが微妙なケース)について賃貸人にとって有利な判断にかたむくきっかけになるものと思われます。

 というわけで、カスハラ禁止条項には賃借人との無用なトラブルを未然に防ぐ一定の効果が期待できますので、賃貸借契約書の特記事項に記載しておいたほうがよいでしょう。

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