複合構造家屋の固定資産税(最高裁の判例紹介)
最高裁は、2025年2月17日、複合構造家屋の固定資産税に関して3件の判決を言い渡しました。2件は大阪市、1件は広島市が相手方です。今回その争点を解説します。
▼裁判の争点
本件の争点は、低層階(地下階を含みます)が鉄骨鉄筋コンクリートないし鉄筋コンクリート造(以下「SRC造等」と略します)で、その上の高層階が鉄骨造の「複合構造家屋」の固定資産評価額をどちらで計算するのかということでした。
すなわち、非木造家屋の固定資産評価額は「再築費評価点×経年減点補正率」(「再築費評価点」とは、評価時点で再び新築・増築すると仮定したときに必要となる建築費のこと)で計算されるところ、SRC造等よりも鉄骨造の方が早く経年劣化するため、「複合構造家屋」の「経年減点補正率」について、一棟全部についてSRC造等の方を採用すると固定資産税が高くなり、逆に一棟全部について鉄骨造の方を採用すると固定資産税が安くなります。
▼対象建物の構造
本件の各建物は、いずれもSRC造等の低層階の上に鉄骨造の高層階がのっているという複合構造家屋です。一棟の建物に占める鉄骨造の床面積の割合は、少ない順に、①58%②80%③87%④90%です。市は、低層階がSRC造等であれば一棟全体をSRC造等として評価すべきであると主張し(「低階層方式」)、これに対し、納税者側は、鉄骨造部分の床面積割合がSRC造等部分よりも多い場合には一棟全体を鉄骨造として評価すべきであると主張し(「床面積方式」)、双方が争いました。
本件の争いが熾烈なものになった理由は3点です。
第一の理由
総務省が定める「固定資産評価基準」とそれを受けて各市町村が定める「実施要項」において、「複合構造家屋」の評価基準が「低階層方式」なのか「床面積方式」なのかそれ以外なのかについて、本件各建物の新築時点では明記されていなかったからです。
第二の理由
大阪市は平成18年、広島市は平成29年の「実施要項」で新築家屋には「床面積方式」を採用すると明記したからです。
第三の理由
平成12年に総務省の外郭団体である「資産評価システム研究センター」が「床面積方式を原則とすべきである」と発表したことで、評価基準を「低階層方式」から「床面積方式」に変更する市町村が相次いだからです。 このような理由で、本件の納税者側は、新築家屋だけでなく在来分家屋についても「床面積方式」で固定資産評価をやり直してほしいと求めました。
▼最高裁の判決
最高裁は、「家屋に作用する荷重や外力は最終的には低階層を構成する構造によって負担されることになるから、低階層を構成する構造の耐用年数が経過しない限り補修等によって建物としての効用の維持を図ることができるので、
「低階層方式は不合理とはいえない」
として納税者側を敗訴させました。
なお、新築家屋について「床面積方式」を明記した実施要項が在来分家屋にも適用されると固定資産評価事務に大きな負担がかかるとして、新築家屋と在来分家屋の固定資産評価方法が違ったとしても構わないと しています。
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